『イット・フォローズ』のちょっとした解説(まがい)
『イット・フォローズ』を観ました。
これがとてもよかった。
怖さ面白さもさることながら、良い話で素晴らしい映画でした。
ホラー映画にありがちな、若い女性のセックスを戒めるような話であるとの見方もあるようですが、監督曰く「生と死と愛がテーマ」の作品らしいです。
そこら辺についてはTBSラジオたまむすびの映画コーナーで町山さんが詳しく解説しています(ネタバレはしていません)。
→テキスト:町山智浩『イット・フォローズ』『ババドック』とホラー映画を語る
→動画(音声のみ):
で、この作品についてを自分なりに考えてみました。
考えずには居られなかった。
そのくらいの深い余韻があったわけです。
ざっと物語の概要を説明しますと、主人公である女子大生のジェイは彼氏と初めての一夜を共にするのですが、そこで彼氏は事が終わるとジェイにあることを打ち明けます。
「実は君と寝たのには訳がある。ある〝もの〟を移すためだ。
移された人は〝それ(it=イット)〟に死ぬまで追いかけられる。君が死ぬまでずっとだ。
〝それ〟はゆっくりと近づいてきて、君をつかまえようとするだろう。
けれど、君が捕まってしまえば、また〝それ〟は僕のところへやってくる。
だから捕まらないでくれ。早く、〝それ〟を他の人に移すんだ。」
感染した人にしか見えない〝それ〟は姿形を変え、ジェイを捕まえようと後を付けてきます。何処へ逃げようと、ゆっくり、ゆっくりと彼女に近づいてくる。
と、まぁだいたいこんな感じです。
なんでコレが愛やねん。
というハナシですけど。
↓ココからネタバレしています↓
結末から言ってしまいますと、最終的にジェイは幼なじみのポールと結ばれることになります。
ポールは幼い頃からずっとジェイに思いを寄せていたようです。
そして大学生になったジェイに彼氏ができてからも、〝それ〟を移された事を知ったときも、〝それ〟を移すために望まないセックスをしているときも、ずっと彼女のことを一途に想い続けてきたのです。
そしてポールは心身共に疲弊したジェイに提案します。
「もし君さえ良ければ、僕に〝それ〟を移せばいい」
しかしジェイも幼なじみであり、憎からず想っているポールに〝それ〟を移すことを1度は拒否します。
その提案の後、〝それ〟の撃退を試みるのですが、成功したかどうかは曖昧なままです。
これは推測ですが、恐らく一時的に撃退することはできたけれど、〝それ〟はまた姿を変えてジェイを追い続けているのかと思います。
〝それ〟から逃れられないと悟ったジェイは、ずっとそばにいて支え続けてくれたポールと結ばれることを選び、そして最後のカットはジェイとポールの二人が手を繋ぎ、ゆっくりと歩道を歩き始めるところで終わります(二人の後ろには〝それ〟らしきものが、後をつけてきているようにも見える)。
この結末がどういう事かと言えば、愛によってしか〝それ〟の連鎖を止めることができないと言うことなのでしょう。
望まないセックスをすることは時間稼ぎにしかならないわけですから。
その人が死んでしまえば、次は自分の番、そしてまた望まない行為を繰り返すしかない。
〝それ〟を移すためだけのセックスは自分本位の行為でしかありません。
この作品の中では性行為に置き換えてはいますが、どんなことにでも当てはまりますよね。
自分本位の振る舞いは、時間稼ぎやその場しのぎの行為でしかないということです。
最終的に〝それ〟を含めたジェイの全てを背負う覚悟でポールは彼女と結ばれる。
伴侶となる相手の運命を背負う覚悟、それが愛なのだということです。
ポールと結ばれたことによってジェイはもう他の男と寝る必要がなくなり、〝それ〟から逃げる必要もなくなるのです。
愛によって結ばれることで、生きるために死(それ)と向き合うことができるのです。
まぁ、本来的に人間を含めた全ての生き物は死から逃れることは出来ませんし、そういう話なんだろうなと思います。
〝それ〟がなんであれ、話の根幹は普遍的な話に帰着しているわけですね。
しかしながら、上記で町山さんが仰っていたドストエフスキーの「白痴」の引用や、T・S・エリオットの詩の引用が重要ってところは分かりませんでしたけど。
でもそーゆーことなのかな、と。
いやー、でも本当に面白かった。
映像的には人がてくてく歩いてくるだけなのにこんなに怖いとは…
音楽も良かったですし、ガジェットもいちいちオシャレで素敵です。
主人公の友人が「白痴」を電子書籍で読んでいるんですが、そのリーダーが無茶苦茶オシャレでしたね。
調べたら、この作品のために作られた架空のガジェットらしいです。
商品化したら良いのに。
あと主人公のジェイちゃんを演じていたマイカ・モンローちゃん。
あの子は『ザ・ゲスト』という映画でも殺人マシーンに追いかけられてましたね。
『ザ・ゲスト』も相当面白かった。
『ハロウィン』のパロディっぽいサスペンス映画なので、興味のある方はそちらも観てみると良いかと思います。
『イット・フォローズ』の方ももう劇場ではあまりやっていませんが、観る機会があったら是非。
ではまた。